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5万年を旅した隕石(2012年12月28日)

カリフォルニアに落下した炭素質コンドライト隕石の分析

岡崎助教、武知さんらの研究グループはカリフォルニアに落下したSutter’s Mill隕石を分析しました。高性能希ガス質量分析装置を用いて希ガス同位体分析を行い、この隕石がプレソーラー粒子を含む始原的な物質であること、隕石母天体表面で太陽風の照射を受けたこと、母天体脱出後約5万年の間宇宙空間を漂った後地球に落下してきたことなどを明らかにしました。この研究成果は「Science」誌に掲載されました。

岡﨑隆司(理学研究院 地球惑星科学部門)・武智弘之(理学府 地球惑星科学専攻)

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Image:Wikipedia/Sutter’s Mill meteorite

カリフォルニアの隕石落下

2012年4月22日、カリフォルニア州において隕石シャワーによる発光と爆音が報告され、その2日後に3個の隕石破片がSutter’s Millという地域で発見されました。その後、破片数77個の隕石が回収され「Sutter’s Mill隕石」と命名されました。ドップラー気象レーダーを用いた落下軌道予測により速やかに回収されたため、地球上での汚染・風化を受けずに研究者達に配付され、世界中の実績ある研究者が様々な科学分析を開始しました。

この隕石は「水をふくむ酸化的な環境を持つ天体」から飛来して来たと考えられている『CM炭素質コンドライト』という種類の隕石であることが判明しました。CM炭素質コンドライトは約46億年前に形成した母天体から飛来した隕石で、形成後強い加熱を受けていないため、太陽系創生当時の情報を含んでいると考えられています。

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図1:Sutter’s Mill隕石の画像(出典:Wikipedia)

隕石の希ガス成分を解析

希ガスは揮発性が高く、宇宙空間や小天体内部での加熱により固体物質から容易に失われるため、隕石中の希ガス存在度は熱影響を評価する最も敏感な指標です。また、放射性核種の崩壊によって生成する同位体組成を解析し易いため、様々な年代測定に応用されています。希ガス同位体組成は放射壊変だけでなく、恒星や超新星爆発、高エネルギー宇宙線との相互作用による元素合成など様々な要因で変動します。

つまり、隕石に含まれている希ガスの成分を分析してその起源を特定する事で、隕石や母天体の形成や飛来の歴史を知る事ができるのです。

カリフォルニア大学から九州大学に2つの隕石資料(SM43, SM51)が送付されました。岡崎助教、武智さん、長尾東大教授らは隕石資料を加熱して希ガスを抽出し、隕石に含まれている希ガスの成分比などを分析しました。

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図2:アルミ箔カップ(写真左のピンセットで摘んでいる物)に入れ、真空加熱炉サンプルホルダに設置(写真右)。サンプルホルダから炉のるつぼに落として資料を加熱し、希ガスを抽出する。

隕石に含まれていた太陽系形成以前の物質

分析の結果、Sutter’s Mill隕石中のAr, Kr, Xeは『P1ガス』と呼ばれる隕石固有のガスが大部分を占めていることが分かりました。P1ガスは太陽系星雲のガスが炭素質物質に取り込まれた始原的なガスと考えられており、Sutter’s Mill隕石中の濃度は他のCM炭素質コンドライト中の濃度とよく一致していました。

一方で、600度で加熱したSM43の隕石資料の分析結果には、地球大気の影響が見られました。

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図3:Sutter’s Mill隕石中のAr, Kr, Xeの元素比

Ne同位体組成からは、プレソーラー粒子(太陽系形成以前に他の恒星や超新星爆発によって形成された粒子)に含まれる希ガスや太陽風起源の希ガスが含まれていることがわかりました。太陽風起源のガスは、母天体表面での小惑星破片や宇宙塵などの度重なる衝突の際に太陽風照射を経験したことを示唆しています。

これらの太陽系内外由来の始原的希ガスに加えて、高エネルギー宇宙線によって生成されたNe(GCR-Ne)も含まれていました。GCR-Neの量を見積もると、宇宙線を浴びた期間、つまり、隕石が母天体から放出され地球に落下するまでの期間はおよそ5万年になります。この5万年という期間は、他の多くのCM炭素質コンドライトと比べてかなり短いものです。おそらくSutter’s Mill隕石の母天体の軌道がCM炭素質コンドライト特有の公転軌道に乗る前にSutter’s Mill隕石が母天体から放出された結果、照射年代が短くなったと考えられます。

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図4:Sutter’s Mill隕石中のNeの同位体組成

はやぶさ2への期待

Sutter’s Mill隕石の分析により、他のCM炭素質コンドライト隕石からは発見されていない特殊な鉱物が初めて発見されました。Sutter’s Mill隕石は落下後すぐに回収され適切な環境で保管されたため、特殊な鉱物が地球の酸素や水と反応して分解する前に発見に至ったと推測されます。

しかし、当研究グループの行った希ガス分析においては地球大気の影響が検出されています。太陽系での物質進化を解明するにはどのような起源の希ガスがどの程度含まれているかを調査することが重要であるため、地球大気の影響を貴重な試料に極力与えてはなりません。

2020年帰還予定の「はやぶさ2」が持ち帰る1999JU3天体の試料からも、これまで我々が目にしなかったような様々な物質が発見され、惑星科学における新たな知見が得られることが大いに期待されます。

より詳しく知りたい方は・・・
タイトル
Radar-Enabled Recovery of the Sutter’s Mill Meteorite, a Carbonaceous Chondrite Regolith Breccia (Abstract)
著者
P. Jenniskens et al. (the Sutter’s Mill Meteorite Consortium)
雑誌名
Science, Vol. 338, p. 1521, 2012
研究室HP
惑星系形成進化学研究室
キーワード
太陽系, 小惑星, 希ガス, 隕石