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線虫で100円がん検査(2015年3月25日)

尿1滴で短時間・安価・高精度に早期がんを診断!

がんは長年の間、日本人の死因第1位であり、医療費や早期死亡による経済的影響は数兆円(世界では100兆円)にも上ります。がんの対策には早期発見が最も有効であり、手軽に安価に高精度に早期がんを診断できる技術が期待されています。生物科学部門の広津崇亮助教らの研究グループは、線虫が尿によって高精度にがんの有無を識別できることをつきとめました本研究成果は、米国オンライン科学誌PLOS ONEに掲載されました。

広津崇亮(理学研究院 生物科学部門)

がんの現状

がんによる死亡者数は全世界で年間820万人(2012年)、2030年には1300万人に増加すると言われています(WHO)。我が国でもがんは1981年から死因第1位であり、2人に1人ががんを経験し、3人に1人ががんにより死亡しています。

がんによる死亡を防ぐ最も有効な手段は早期発見・早期治療です。しかし、我が国のがん検診受診率は約30%にとどまっています。その理由としては、「面倒である(医療機関に行く必要がある)」、「費用が高い」、「痛みを伴う」、「診断まで時間がかかる」、「がん種ごとに異なる検査を受ける必要がある」などが挙げられます。そこで、手軽に安価に高精度に全てのがんを早期に診断できる、がんスクリーニング技術の開発が望まれていました。

尿に含まれる匂いと線虫の優れた嗅覚に注目

がん患者には特有の匂いがあることが臨床現場では知られています。このがんの匂いに注目し、犬を用いてがん診断しようという試みがあります。しかし、犬の集中力の問題で1日に5検体程度しか調べられません。そこで研究グループは、線虫C. elegansに着目しました(2014年7月理学部ニュース参照)。線虫は犬と同程度の種類の嗅覚受容体を有する嗅覚の優れた生物であり、匂いに対する走性行動(好きな匂いに寄っていく、嫌いな匂いから逃げる)から反応を容易に調べられます。

がんの匂いは、血液、尿、呼気など様々な物に含まれています。研究グループは、最も採取が簡便な尿に注目しました。まず、がん患者の尿20検体、健常者の尿10検体について線虫の反応を調べたところ、全てのがん患者の尿には誘引行動を、反対に全ての健常者の尿には忌避行動を示すことがわかりました(図1、図2)。また、ステージ1の早期がんにも反応したことから、早期がんを発見できる可能性も示唆されました。

201403-fig1
図1:尿に対する線虫の反応。走性インデックスは、匂いに寄って行った線虫の割合で、正の値は誘引行動を、負の値は忌避行動を示す。
201403-fig2
図2:がん患者、健常者の尿に対する線虫の走性行動。開始から30分後のプレートの写真。

本当に匂いに反応しているのかを確認する為、嗅覚神経を破壊した線虫で実験した所、誘引行動は起こりませんでした。また、線虫の嗅覚神経を調べた結果、がん患者の尿に有意に強く反応している事も確認できました。

線虫嗅覚テスト(n-nose)の精度

線虫の嗅覚を用いたがん診断テスト(n-nose)の精度を調べるために、242検体(がん患者:24、健常者:218)の尿について線虫の反応を調べました。その結果、がん患者をがんと診断できる確率(感度)は95.8%、健常者を健常者と診断できる確率(特異度)は95.0%とどちらも高い確率でした。特に感度は圧倒的で、同じ被験者について同時に検査した他の腫瘍マーカーと比べて極めて高い確率でした(表1)。

201403-table1
表1:242検体に対する各種テストの精度。CEA、抗p53抗体、尿中ジアセチルスペルミンはすでに市販されている腫瘍マーカー。

従来の腫瘍マーカーが1検体数千円以上かかることを考えると、数百円で行えるn-noseは、コスト面でも優れています。さらに興味深いことに、がん患者24例中5例については、尿が採取された2年前の時点ではがんと診断されませんでしたが、その尿にn-noseを用いると高い確率でがんを発見できています。すなわち、従来のがん検診では見逃されていた早期がんを発見できる可能性を示しています。実際、がん患者24例中12例はステージ0、1の早期がんでしたが、すべて正しく判定できています。

n-noseの利点

  1. 苦痛がない:尿サンプルを解析。必要な尿はわずか1滴!
  2. 簡便:尿の採取に食事などの特別な条件は定めていません。通常の健康診断などで採取した尿を使えます。また医療機関に行く必要がないため、地域間格差もありません。
  3. 早い:診断結果が出るまで約1時間半です。
  4. 安価:1検体あたり数百円で検査できます。機械化されればより安価に。検査システムの立ち上げコストも安価であり、開発途上国での導入も期待できます。
  5. すべてのがんを1度に検出可能:これまでに調べた10数種類のがんについてすべて検出可能でした。その中には早期発見が難しい膵臓がんも含まれています。
  6. 早期がんを発見できる:ステージ0、1の早期がんや、従来の検査では見つけられなかったがんについても検出可能でした。
  7. 高感度:感度95.8%という結果が得られています。

未来のがん検診

n-noseが実用化されれば、がん検診受診率の飛躍的向上とそれによる早期がん発見率の上昇、がんの死亡者数の激減、医療費の大幅な削減が見込まれ、人類社会全体の変革につながる可能性があります。現在のところ、n-noseは全てのがんを検出できる反面、がん種を特定できない欠点がありますが、研究グループはがん種を特定できる技術の開発に向けて解析を進めています。

より詳しく知りたい方は・・・
タイトル
A Highly Accurate Inclusive Cancer Screening Test Using Caenorhabditis elegans Scent Detection (Abstract)
著者
Takaaki Hirotsu*, Hideto Sonoda*, Takayuki Uozumi, Yoshiaki Shinden, Koshi Mimori, Yoshihiko Maehara, Naoko Ueda, Masayuki Hamakawa (*同等貢献)
雑誌名
PLOS ONE 10(3): e0118699 (2015)
研究室HP
広津グループ
メディア掲載
平成27年3月12日 読売、朝日、毎日、西日本、他多数
平成27年3月12日~ テレビ報道多数
キーワード
がん、尿、匂い、線虫、n-nose