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実生バンク 豊凶の進化を促進(2010年11月5日)

林床の実生バンクが、豊凶という繁殖様式の進化を促進させる

ブナなどの樹木が数年に一度、一斉に種子生産を行う豊凶と呼ばれる繁殖様式の進化には、種子が発芽してすぐの実生が林床で長く生存することが重要であることを明らかにした。システム生命学府の立木さんらがJournal of Ecology誌に発表した。

立木佑弥(システム生命学府)

豊凶がおこる生理メカニズム

ブナやミズナラなど、ドングリを作る堅果類の樹木の多くは、数年に一度、一斉に種子生産を行う。このような繁殖様式は豊凶やマスティングと呼ばれ、堅果類のほかサトウカエデなどでも観察される。

豊凶が起こる原因のひとつとして、樹木が繁殖に多くの資源を必要するとき、体内に必要な資源を蓄積するために時間がかかることが考えられる。

樹木が毎年体内に資源を蓄えていき、貯蓄が十分に溜まったときにそれを繁殖に投資すると考える。樹木が繁殖にわずかな資源しか投資しなければ、貯蔵資源量は簡単に回復して次の年も繁殖する事ができる。一方、樹木が一回の繁殖に非常にたくさんの資源を投資する場合、繁殖によって失われた貯蓄の回復に時間がかかるため次の繁殖は数年後となる(図1)。

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図1:資源の蓄積と繁殖への投資。一年ごとに光合成により資源が蓄積されていき、ある一定量を超えると繁殖が行われ、花や実へ資源が投資される。

植物が資源を蓄積し、それを繁殖へと投資している場合、毎年少しずつ繁殖に投資するのがよいのだろうか。それとも回復に時間がかかっても一度に多く投資した方がよいのだろうか。

豊凶の進化モデル1:資源の蓄積と繁殖への投資

立木さんらは、どのような条件のときに豊凶が進化するかを調べるために数理モデルを用いた解析を行った。モデルでは、毎年資源を1単位ずつ蓄積する個体Aと個体Bがおり、個体Aは資源が1単位蓄積したときに、個体Bは資源が2単位蓄積した時に繁殖を行うと仮定する(表1上)。

他の個体が花をつけないと花粉を十分に受け取る事ができないという制約を考えると、1年目と3年目は個体Aしか花をつけないため受粉率が低下し、繁殖に投資した資源1単位に対して種子生産は0.5となる。2年目と4年目は個体AもBも花をつけるため受粉率が1となり、それぞれ投資した資源量だけ種子生産を行うことができる。1年あたりの平均種子生産数を考えると、2年に1回繁殖を行う個体Bの方が資源を有効に投資できている(表1下)。

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表1:繁殖への投資量がことなる個体Aと個体Bの種子生産の年変動。

この結果は、豊凶が進化する条件を示してように見える。しかしこのモデルでは、生産された種子はすべて樹木に成長すると考えているが、実際の森林ではすべての種子が成長するのに必要な光が不足しており、この点を考えていないという問題がある。

豊凶の進化モデル2:ギャップの利用で豊凶は進化しなくなる?

通常、森林では上部を成長した樹木が覆っているため、地面まで十分な光が届かず、生産されたすべての種子が成長できるとは限らない。生産された種子が成長するためには、樹木が倒れてできたギャップと呼ばれる光が差し込むスペースが必要となる(図2)。

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図2:ギャップのでき方とその利用。

そこでギャップが毎年1つだけできて、その中でAかBのどちらかの種子だけが成長できると仮定する。AとBのどちらの種子がギャップを利用できるかは、種子生産にどれだけ資源を投資したかで決定されるとすると、1年目と3年目は個体Aしかいないので個体Aの種子がギャップで成長し、2年目と4年目は個体Bの方がAよりも2倍種子生産に資源を投資しているので、ギャップを利用できる確率は個体Aが1/3、個体Bが2/3となる(表2)。

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表2:ギャップが利用できる確率の年変動。

ギャップを利用できる平均確率は、個体Aが2/3なのに対して個体Bは1/3となり、毎年種子を生産する繁殖様式が進化し、豊凶は進化しないという結果となる。これは生産した種子が1年以上生き残ることを仮定していないためである。

豊凶の進化モデル3:実生バンクが豊凶の進化を促進

種子は発芽して実生(みしょう:芽生えの事)となり、暗い林床の中でも何年かは生きる事ができる。このような実生の集まりは実生バンクと呼ばれるが、いま実生バンクでは実生が最大2年間生きる事ができて、1年間に半分は死んでしまうと仮定する。

すると、個体Bでいままで種子生産が0だった年でも、前の年の実生が半分生き残っているためギャップで成長する可能性がでてくる。ギャップで成長できる平均確率を計算すると個体B(29/52)の方が個体A(23/52)よりも大きくなり、豊凶が進化する結果となった。

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表3:実生の生存を考えた際の、ギャップが利用できる確率の年変動。

以上のように、資源の蓄積と繁殖への投資、ギャップでの成長と実生の1年以上の生存を考えることで、豊凶が進化する条件を明らかにすることができた。

今後の研究について立木さんは、「この研究で取り上げたような樹木の進化が、その森の中にいる他の植物や動物の進化にどのような影響を与えるかをコンピュータシミュレーションによって調べたい」と語る。

研究こぼれ話

論文では数式が多く使われていますが、記事中で説明した内容より複雑な解析を行っているのですか?

「はい。論文ではもっと生物の生態を詳しく組み込んだ数学モデルを作り解析しました。しかし論理展開は記事中と同じです。」

– このような進化過程を実際に観察するのは難しいですよね。

「実際の進化は数千年、数万年という時間スケールで起きています。そこで数理モデルを使った解析が有効となります。静かに見える森のなかでも、生存競争をとおした進化がおきており、私たちが生きている時間よりもっと長い時間スケールを考えることで、森の進化を見る事ができるのです。」

より詳しく知りたい方は・・・
タイトル
Both seedling banks and specialist seed predators promote the evolution of synchronized and intermittent reproduction (masting) in trees ( Abstract )
著者
Yuuya Tachiki, Yoh Iwasa
雑誌名
Journal of Ecology, VOL. 98, 1398–1408, 2010
研究室HP
数理生物学研究室
キーワード
生態、進化、樹木、森林